飲まない日々

 わけあって禁酒中。先週の日曜の夜を最後に、現在(土曜夜)まで一滴も飲んでいない。明日の昼過ぎまで継続の予定。
 なんのことはない、日曜日の午前に健康診断を受診するからである。一年ばかり前に、何か血液中の数値が正常より高くて、医者から「まあ、これはアルコール控えれば元に戻るよ」と言われていたのだ。果たして一週間くらいで結果に跳ね返るのかどうか、僕にはよく分からないが、何もしないよりはましだろう。本来助言されたのは、こういう一夜漬け的対応ではなく、もっと日常的根本的対処だろうとは思うが、さしあたってそちらには目をつぶっておくことにする。
 週日の二晩ほど友達と外食をする機会があったのだが、飲み物は水。ピッツェリアでチーズのとろける熱々のピザを頬張りながらワインを飲まない。インド料理レストランで羊をタンドリーで焼いたものを囓りながら、ビールを飲まない。これはこれで奇妙な体験であった。勘定の際には、ありがたいと思ったけれど。
 土曜、午前のテニスが終わる。いつもならば、帰宅してシャワーを浴びて、エアコンを効かせた部屋でビールを開けるまで水気はぐっと我慢するところである。例の如く、コーチ相手に負けたので(僕が1ゲームでも取れれば僕の勝ち、という設定なのだが)、賭の代償としてコーラを一瓶。暑くてふらふらになっていたから、フロントで「グラス二つで」と付け加えて、コーチと一杯ずつ。これが、めっぽう美味いと思った。
 お昼を過ぎ、しなければならないこともなく、部屋でのんびりしていた。いつもなら冷えたビールを取り出す状況だが、そういうための何かしらのエネルギーだか、心の勢いだかが余っていたらしく、同じように冷蔵庫の扉に手をかけたものの、したことと言えば、霜取りと庫内の掃除。しかも、かなり熱心に。
 一週間丸々、というのは、考えてみたらずいぶん久しぶりな気がする。チュラ大時代は、試験前に禁酒をしていたが、それ以来ではないだろうか。あの時には、単語の記憶やら、レポートの作成やらに精を出していたのだが、今回は、そういう代替すべき何かがあるわけではない。飲酒に向けられていた時間や労力がぽっかりと浮いてしまっている。僕の日常において、酒を飲むという行為が深く根付いていることを改めて知ることになった。
 そうは言っても、手が震えたり、禁断症状が出たりすることようなわけではなく、ただ、「あれま、どうしよっか」という問いかけが宙ぶらりんになっているだけである。
 実際のところ、この一週間でナントカカントカの値が改善することはないのかもしれない。そうでなくとも例えば、身体が普段より軽いだとか、空いた時間で勉強に励むだとか、あるいはテニスに勝つだとか、そういうメリットを直接に得ることもなかった。むしろ、飲まない分、眠気が襲うのがゆっくりで、いつもより一時間遅い就寝時刻になってしまい、その分、朝がつらかったりもした。何より、妙に手持ちぶさたな感覚がずっと付きまとっていた。
 これがもし、三ヶ月だとか半年だとかになると、「どうしよっか」に対する明確な回答か、少なくとも方向性の探索くらいをしなければ退屈に過ぎるだろうが、まあ一週間のことなのでぼんやりしていても差し支えない。それに、さしあたって今夜なすべきことは、明確に見つかったのだ。缶ビールを三本ばかり、冷蔵庫に入れておくこと。


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