カニ・エビワンタンラーメン

 中国文化の影響を受けた土地には、それぞれの麺料理がある。ベトナムのフォー、インドネシアのミー、ミャンマーにはモヒンガーといった具合に。
 タイの街角でも、大鍋からもうもうと湯気をあげて、麺類を専門にする食堂や屋台によく出会う。店先のガラスケースを見れば、何が食べられるか一目瞭然。焼き豚の固まり、丸ごとのアヒル、積みあげられた魚のつみれ……。
 その中で、さっぱりした味ながらぜいたくな一品、バミー・ナム・キアウ・プーは、中華街、ヤワラート通りの辺りに有名店が多い。
 バミーは小麦粉と鶏卵を原料とする麺、ナムは水、キアウはワンタン、プーはカニのこと。すなわち、ワンタンとカニ肉を乗せ、スープを注いだラーメン。
 あっさりした透明の鶏のだしに、黄色い細麺。その上に、ほぐしたカニの白い身がたっぷり。かぶりつくワンタンには、つるんとした皮の中に、ぷりぷりのエビが踊る。薬味のコリアンダーの香りがまた食欲をそそる。
 卓上には、4種の調味料が置かれている。ナンプラー、粉トウガラシ、トウガラシ漬け酢、それに砂糖。自分で好みの味に調える。
 ずるずるっと勢いよくすすり、丼を持ち上げてごくごくぷはーっ……と、いきたいところだが、実はこれ、両方ともタイでの行儀としては、眉をしかめられる。長い竹の箸とレンゲとで、音を立てずに味わう。上品な人になると、麺を一度レンゲに乗せてから口に運ぶほど。
 所変われば作法も変わる。しかし、「ラーメン」がアジアの美味であるのはいずくも同じ。

神戸新聞/2005年9月16日掲載


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