あなたのお味は?

 タイ人は、我々の目からすると、ふんだんに砂糖を食べる。
 例えば屋台で麺類を食べるというのはごく日常だが、そのテーブルの上には「ナンプラー(魚醤)」「酢に漬けた生唐辛子」「唐辛子の粉」などの調味料、そして「砂糖」が置かれている。出てくるのは、あっさりめのラーメンを想像していただきたい。そこにこれらを自分の好みの分量ずつ入れて、よく混ぜて食べるのである。何より、ラーメンに砂糖、である。観察していると、スプーンに2、3杯どさっと使う人すらいる。
 また、切り売りの果物を買うと、小袋に入った調味料がついてくることがある。プリッククルア(唐辛子塩)と呼ばれるが、砂糖が入っていることも多い。これは結構不思議な味がする。甘みと塩気と辛味が、まったく異なるベクトルで味蕾を刺激してくる。
 グァバ、マンゴー、ルビーアップル、ザボン、パイナップルなどは、このプリッククルアをつけて食べることが多い。「さっぱりした味の果物に」と聞いたのだが、甘いマンゴーのどこがさっぱりしているのか、僕にはちょっと分かりかねる。パイナップルの場合は「舌にピリピリくるのが和らぐから」と言う。「でも、そのための唐辛子の方がピリピリしない?」と当然のごとく疑問が浮かぶのだが、タイ人の答えは「全くしない」だった。宜なるかな。
 お菓子類は概して大甘。甘味処の屋台にはよく、蠅ではなくて蜂がぶんぶんと群がっている。飲み物も同様。目の前で絞ってくれるミカンジュースは暑いさなかにうれしいが、実はこれにも砂糖がたっぷり。アイスコーヒーは、コーヒー色をした甘い液体にさらにコンデンスミルクを混ぜるものだから、日本の缶コーヒーよりもさらにこってりした味わいだ。
 おもしろいことに、タイ語で味を表す形容詞は、人について用いられることもあり、その場合は性格や人となりを表現する。
 「彼女は甘い」と言えば、英語の「スウィート」とよく似た雰囲気だ。また、「さっぱりした味」という形容詞を人について使うと「ごく普通の人」ということになる。これらは類推が比較的容易なタイプ。
 では「彼はしょっぱいヤツだ」はどうなるか。「金払いの悪い」「しぶちんの」という意味になる。友達と食事に行っても「あ、財布忘れたみたいだ。悪いけど払っておいてよ」というような人物のことである。
 「あの女性は酸っぱいなあ」と言うと……なんだか眉間に皺を寄せて小言をぐちぐち言う人かと思いきや、「お洒落な」「色っぽい」「モダンな」という意味合いを持つのである。ミシェル・クランのバッグを持っている友達を見かけて「酸っぱいね!」と言ってみたら、彼女は喜んでくれた。ただし、自信過剰の人を指すこともあるので、一概によい意味とも言えない。
 なお、「苦い」を人について用いることはないが、それでも「苦い人生」といった表現は存在する。こればっかりは、いくら砂糖を食べてもどうにもならない。


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